繕い裁つ人
邦画の緩やかな時間の流れや、素朴なストーリーが印象的な映画です。
舞台は神戸なので、神戸の風景が随所に映し出されますが、全員標準語を喋っています。
あらすじ
神戸の南洋裁店の2代目・南市江は、祖母から継いだ洋裁店の主。
先代が町の人たちのために仕立てた洋服を、顧客の要望に応じて仕立て直す仕事に徹し、自ら考えた新しい服を作ることはしない主義だった。
そんな市江のもとに、百貨店の営業マン藤井がブランド化の企画を持ち込む。
祖母から受け継がれた服のリフォームではなく、新しく市江が考え、デザインした服を作ろうと説得する藤井にも、市江は頑として首を縦に振らない。
根気よく市江のもとに通い続ける藤井だったが、ある出来事をきっかけとしてぱったり店に現れなくなってしまう。
そしてしばらくの後に市江は、藤井が自らの希望で東京に転勤となったことを知るのだった。
一生添い遂げられる服
南洋裁店のポリシーは、一生添い遂げられる服。
親族のお古を仕立て直して中学生の少女に着られるようにしたり、
年齢とともに変わった体型にあわせてサイズを直したり、
市江は祖母が町の人々のために作った服を、その後もお客さんが付き合い続けられるように仕立て直していきます。
藤井は南洋裁店の服に惚れ込んで市江のもとに通い詰めますが、後半でその理由が明らかになります。
彼には事故で足が不自由になってしまった妹がいましたが、引きこもってしまった妹を再び外の世界に連れ出したのは、可愛いワンピースでした。
服の持つ力を知った藤井は服の仕事に携わり、そこで見つけた市江の服をたくさんの人に着てもらいたいと考えるようになったのです。
最終的に市江は、先代の仕事を受け継ぐだけでなく、今生きている人のための服を、今生きている自分が作ろうと決意します。
決意のきっかけ、最初の作品は、藤井の妹のために作ったウエディングドレスでした。
感想
欲を言えば、肝心の祖母が残した洋服たちが、もっと素敵なデザインだったらよかったなと思います。
劇中で少女たちが言っている通り、時代を感じさせる格好になっているのは間違いないので。
でも、市江や祖母の思想と言うか、服に対する思いはシンプルにしっかりと表現されていました。
ゆるりとした雰囲気を楽しむにはいいですが、展開の密度は薄いので、濃い映画を求めている方には少し合わないかもしれません。