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働くハツカネズミぶろぐ

働きながら感じたことをつらつら書き綴ります。インフラ企業下っ端。

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ソロモンの偽証

宮部みゆき推理小説を映画化した作品です。

原作は文庫本の一巻しか読んでいませんので、映画に絞ってちょこちょことネタバレをしつつレビューを書きたいと思います。

 

 

 あらすじ

真冬のある日、下町の中学校で雪の中から生徒の遺体が発見された。

事件性はないと見られ、警察は生徒・柏木本人の自殺と結論付けた。

しかしその後、刑事を父に持つ生徒・藤野涼子のもとに、柏木は自殺ではなく、別の生徒大出俊次によって殺されたのだとする告発状が届く。

告発状は波紋を呼び、生徒、保護者、教員のみならず、メディアをも巻き込んだスキャンダルとなってゆき、やがて他の生徒の死まで招いてしまう。

藤野涼子は、柏木の自殺に関わる関係者を集め、学校内裁判を開くことを提案する。

 

中学生の群像劇

ヒロインの藤野涼子、自殺した柏木、告発状を書いた三宅樹里、稀代の不良大出俊次、担任のモリリンこと森内先生などなど、数多の登場人物が出てきます。

それぞれに確固たる人格があるところが、いかにも心理描写を得意とする宮部みゆきっぽいです。

中学生の群像劇ということで、スクリーンに登場するのは大半が中学生ですが、全然ほのぼのしてません。

それは、1人の人物が亡くなった事件だからというだけでなく、大出の残酷なまでのいじめ、柏木の鬱屈した人格、三宅樹里の歪んだ訴えなど、思春期の中学生たちの抜き身の感情が交錯しているからです。

正しいことが正しく実行されない不条理への不満、誰も自分の言葉を聞きいれてくれない遣る瀬無さ、他人に正論をぶつけてしまう幼さなど、誰もが登場人物たちの感情のいずれかに共感してしまうのではないでしょうか。

中学生は、小学生ほど無邪気ではなく、理解力も高まっています。

だから、大人のできていないところが徐々に目につき始めます。

一方で、高校生と比べるとまだまだ大人は彼らの言葉に耳を傾けてくれず、アルバイトなどで学校の外の世界を見出すこともできない時期です。

子どもと大人の狭間の時期で苦しむ様子が、誇張や美化なく描かれています。

 

謎の真相と裁判

肝心の謎はと言うと、それほど複雑なところはありませんでした。

しかし、混迷を極めた状況が裁判によって徐々に整理されていくと、妙にすっきりした気分になれます。

そして、一人一人証言や尋問を行う生徒たちを見ながら、彼らの人格形成は家族によって大きな比重が占められているのだと痛感しました。

良識を持ってことに当たれる藤野涼子や、明るく人を攻撃しない浅井松子は、理性的な両親や、愛情あふれる家庭環境に恵まれています。

しかし、攻撃的な三宅樹里は自分の言葉を真剣に聴いてくれない母の存在に悩み、いじめに精を出す大出も暴力的な父のもと育っています。

彼らは、自分のいる環境や、大人たちへの疑問を抱え始めても、まだ自分で行動することはできない微妙な年齢にあることを思い知らされます。

そして、それらの環境は確実に彼らの人格形成に影響しているのです。

 

謎解きを楽しむミステリーと言うより、人間ドラマを楽しむ群像劇として楽しめる作品だと思いました。

いつか原作の小説も読んでみたいと思います。